日米貿易協定が8月下旬に日米両首脳間で大枠合意に至りました。安倍政権は、今週、ニューヨークでの国連総会出席に合わせて、トランプ大統領と協定内容に関して合意し、月内の協定文書調印、そして来月召集予定の臨時国会で承認を得て、年内の発効を目指しているようです。
米国との交渉を担当した茂木敏充経済財政・再生相は8月29日の自民党の会合で、日米貿易交渉について「国益を守り、バランスのとれたとりまとめができた」と説明し、出席者から異論は出なかったと報じられています。現在も詳細な協定の中身の交渉が続けられているため、現時点では大枠の情報しか得ることができませんが、この貿易協定が、本当に「国益を守った」内容となっているのか、今後、国会での議論などを通じて精査する必要があります。
日本が農業関税で譲歩する一方、米国は自動車関税の引き下げに応じず
まず、日本がTPPと同水準まで農業関税を下げる一方、米国は自動車本体の関税の引き下げに応じず、貿易協定とは切り離して継続協議となった点に注目しなければなりません。トランプ大統領が日本からの自動車輸入関税を大幅に引き上げると脅しともとれるような主張を繰り返していたため、自動車関税が現状のままに据え置かれるだけで日本にとって御の字と見る論調がありますが、最終的な協定内容に関して、日本だけが一方的に関税を引き下げる内容になっていないか、本当に国益にかなうものなのか、国会で議論していかなければなりません。
WTO協定違反の疑いも
上記の自動車関税と強く関係するもう一つの問題点として、今回の協定が、国際貿易のルールを取り決めているWTO協定に違反する恐れが強い、という点が挙げられます。
貿易がブロック化し、経済的に対立したことが第二次世界大戦を招いた一因であるとの反省から、戦後、国際社会は自由貿易を推進し、経済的なつながりを出来るだけ多くの国の間で深めることを通じて、国際社会の平和を守ろうとしてきました。現在160以上の国と地域が加盟するWTO協定の根幹は、そのメンバーを無差別・平等に扱うことにあり、特定の国や地域だけで集団を形成し独自の貿易ルールを作る貿易協定に関しては、例外を除き禁止しています。今回の貿易協定から自動車本体が除かれて、部分的な関税率の撤廃に今回の協定が留まれば、WTO協定違反になる恐れが極めて高いです。
自由で公平な貿易体制を維持し世界平和を護るという歴史的使命を日本が果たしていくためにも、短期的な利益に惑わされず、中長期的な視点で日本の国益に資する協定となっているか、国会の仲間としっかりと見極めていきます。