子どもや若者たちが夢を諦めなくて済む無償化の設計
斎藤アレックス: 本日は、前原代表、嘉田副代表、そして末冨芳先生、よろしくお願いいたします。
前原誠司: 教育無償化を実現する代表の前原誠司です。とにかく我々は日本再生のセンターピンが大学無償化であると考えております。その中身をこれから皆様方と議論しながら、さらに肉付けもしていきたいと思っております。よろしくお願いいたします。
末冨芳: 日本大学のです。
私自身は教育財政という専門分野を持っておりまして、特に教育の無償化については30代から自分自身の主要な研究テーマの一つとしてきました。
今回、教育無償化を実現する会が発足され、ついに日本でも教育無償化を掲げて活動してくださる政党ができたのだなということで大変感慨深く、そしてうれしく思っております。
私は元々大学院生の時から、日本について、家族が子どもの教育費を負担する比率が非常に高い国として認識していましたが、それは子育てを自己責任にしているということだと思います。
だからこそ、低所得世帯の子どもたちは、中間所得層以上の子どもたちと比べて進学に格差があります。特に最近は、少子化の促進要因として、大学まで非常に多くの教育費がかかるので、そもそも結婚しない、あるいはあともう一人産みたかったけど、やめましたという方が非常に多くなっています。
斎藤アレックス: 日本は自己責任の感覚が非常に強くて、特に子育てに関しても親の責任という感覚が強いですが、ヨーロッパ等と日本とでは結構感覚が違うのですか。
末冨芳: ヨーロッパといっても様々ですが、少なくとも就学前から義務教育期までは基本的に所得にかかわらず、政府が子どもたちの教育を無償化するというのが基本にあります。高等教育についても、北欧とか、フランス、ドイツも含めて国のためになる人材養成なのだから、授業料をかからないようにする、もしくは、基本的に無償にしていくということが基本設計になっています。
ただ、北欧型のように働くことと学ぶことをセットにした上で無償になるケースもありますが、基本的には子どもは社会で育てる。なぜならば、その人たちがいずれ国に貢献していくのだから、家族だけに任せるのは違うというふうに、国家としての戦略の中に組み込まれています。
嘉田由紀子: 世界中の子育てのあり方と女性の社会参加を考えたときに、フランスなどはPACS婚(※)が半分以上ですよね。それに加えて生まれた子どもは全部国が面倒を見ます。
私は、フランスのシラク3原則的な、いつでも産んで下さい、産んだら教育費を含めて全部国が面倒を見ます、産むことによる差別はないです、ということを実現しないと、日本に未来はないと思います。それを個人的な経験でも切実に感じました。
※PACS:フランスで導入されているパートナーシップ制度で、同性・異性を問わず、共同生活を営もうとするカップルを対象とする契約(民事連帯契約)をいう。
斎藤アレックス: 様々な議論がある中で、高等教育まで無償化にするのかどうかという点が大きな論点になると思うのですが、それに関して未富先生はどのようにお考えですか。
末冨芳: 大学を無償化にすることによって、基本的には個人が稼げるようになり、個人収益率が上がる。その他に、例えば医療費の削減につながり、健康でいる期間が長いということも分かっています。
だからこそ、大学までの無償化というのはすごく大事なのですが、無償化についてどういう思想や、設計にしていくかということも大切です。今の日本の四年制大学への進学率は大体55%程度で推移していまして、逆にいうと残りの45%ぐらいの方は大学に行かない人生を選択しています。
ただ、私自身はやはり大学に入って自分が学びたいことを学び、より良いキャリアを得るということは非常に大事だと思います。国としても重要な投資であり、できれば、やはり年齢制限なく大学まで行ける権利というものを何かの形で保障した方が良いと思います。
前原誠司: 我々が掲げる教育無償化は、全世代型の教育無償化です。当然ながら高等教育を含みますので、今、先生がおっしゃったように制度設計をきちんと構築しなければいけないと思います。意欲を持って勉強する学生や生徒については、しっかりと無償化が担保されるというようにした方が私はいいと思います。
やはり親の所得が多ければ子どもの大学進学率が高くなり、その子どもも生涯賃金が高くなるという、格差の固定化が今の日本社会の大きな問題です。
また、奨学金でいいますと、現在約2人に1人の子どもが奨学金を受けていて返さなければいけない。平均して310万円という多くの借金を抱え、大学から社会人になる。そのことによって、晩婚化、非婚化、少子化の大きな原因にもなっていますので、そういう意味では絶対に高等教育の無償化というものは必要だと思います。
子どもは家庭の宝であると同時に国家の宝
末冨芳: 実は格差の話と教育無償化をセットにして考えた時、大事なことは2つありまして、まず就学前教育の質をいかに良くしていくかということが非常に重要なのと、もう一つが日本の場合、塾ですね。
学校外の教育で差がついてしまうので、入試制度そのものを学校外の教育に依存し過ぎなくて済むように変えていく。あるいは体験格差もそうですね。旅行だったり、キャンプだったりに行けるかどうかということも含めて機会均等にしていく、無償化の対象に含み込んでいくというアイディアがなければ、格差の縮減にはつながりません。
やはり大学無償はすばらしいけれども、そこに至る道の中で子どもや若者たちが夢を諦めなくて済む無償化の設計というのも必要になると思います。
就学前、学校外教育も含めた無償化の設計にして、全ての子ども若者を包摂していくような仕組みにできるかどうかというのが一番大きな課題だと思います。
前原誠司: ありがとうございます。たいへん多く学ばせていただきました。今日のお話に通底しているのですけども、子どもさんはそのご家庭の宝であると同時に、国家の宝です。一人ひとり生まれてきたら、国全体で福祉を行う、そういうベースの中では、教育の無償化というのはあくまでも必要条件なのです。とにかく人を大切にし、安心して潜在力を引き出して、国そのものが豊かになっていくというような呼び水に、我々の活動がなればと思っています。また、いろいろな意見をいただければと思います。
今日はありがとうございました。
対談全ての模様はYouTubeでご覧いただけます。
Part1 「教育無償化ってなぜ必要!?」
Part2 「教育無償化の範囲は高校?それとも大学まで?」
Part3 「日本の教育水準を上げるために必要なことは!?」