「僕は2027年に生まれた。人々が問題解決をあきらめ、
ただやり過ごすようになった時代に。」
昨年公開されたスピルバーグ監督の「レディ・プレイヤー1」という映画は、崩壊とまでは言わないまでも、衰退した近未来で、仮想現実空間(ゲーム)に逃避する人類の姿を描いていました。この映画があくまでエンターティンメント作品で、80年代のポップカルチャーと主人公である少年の成長に主眼を置いた作品であったとしても、上記の主人公のセリフなどから醸し出される世界観は、非常に現在の世相を反映しているなと感じました。問題解決がどんどん先送りされて、将来に明るい希望が見いだせない状況は、日本人の間でも確実に広がってしまっているのではないでしょうか。
前回の記事では、英国のEU離脱問題や、私が共和党下院議員事務所での勤務中に目の当たりにしたトランプ氏(現大統領)の選挙の様子を通じて、かつて繁栄を誇った西側先進諸国の社会が、政治不全などを主因として、ぐらついているというお話をさせて頂きました。そして、政治不全を主因とする社会の綻びは、私たちの国でも起きているとも述べさせていただきました。
日米欧、それぞれ異なった国であっても、これらの西側先進国が抱える問題は共通している部分が多いです。まず何よりも、各国民とも経済面、生活面での不満や不安を抱える時代に突入していることが共通の課題として挙げられます。社会の平穏を保つためには、ある程度の絶対額としての所得(例、一人当たりGDP(年間所得)2万ドル以上)に加えて、所得が増えていくこと、そして相対的な所得の格差が一定範囲内に収まっていることが重要だといわれています。日本を含め、欧米先進国の一人当たりGDPが大きく低下する事態にはなっていませんが、所得の増加の停滞、所得の格差の拡大が進行するなかで、中間層以下の大部分の国民は経済的な不満を募らせています。先進国で起こっている雇用の非正規化、賃金上昇の停滞には経済のグローバル化が大きく関係しているため、これまでグローバル化を推進してきた先進各国の中から、自由な貿易体制や大企業の企業活動に対しての抗議の声というものが強くなっています。
このまま日米欧の西側先進国が力を失い続けて、これらの国の世論が反グローバル化に傾斜し続けていけば、戦後の国際秩序が綻び大惨事を招く可能性さえあります。第一次世界大戦は、ナポレオン戦争後のウィーン体制下における平和がクリミア戦争で崩壊してから約60年後に勃発しましたが、今日の世界が経験していることは、19世紀半ばに起きたこの崩壊に似てきていると思います。かつて、世界経済をけん引し、グローバル経済のルール・規範を作ってきた西側自由主義国が国内問題の対応に追われ、国際社会でリーダーシップをとれなくなれば、今後ますます進展する情報化、第4次産業革命と呼ばれる産業の大きな変革の時代に、国際社会のルール作りを行う主体がいなくなり、無秩序なグローバル経済が出現するか、中国のような権威主義国が横暴にふるまう非民主的な市場環境が誕生してしまうかもしれません。
日本に住む我々の生活と日本企業の活動がグローバルで開かれた国際市場に大きく依存しているからこそ、そして何より平和が日本国民の最大の願いであるからこそ、自由と民主主義という共通の価値観を持つ西側先進各国がしっかりと内政の問題解決を進め、綻んでいる社会を立て直し、国際社会で再びリーダーシップをとれるようにすることが、日本の将来の平和と繁栄に対して非常に重要になってくると確信しています。
こういった世界秩序の維持、繁栄と平和の増進のためにも、本年の日本政治に課せられた責任は重大です。第4次産業革命に乗り遅れないように研究開発や教育への投資を拡大することを通じて日本経済の競争力を強化することと同時に、中間層以下にも恩恵が行きわたる様に、また雇用や将来の見通しに対して安心感を持てる様、グローバル経済がもたらす構造変化に適した形の税制やセーフティーネットの構築が必要です。日本において、日々深刻さを増す経済、社会保障、財政上の危機を目の当たりにして、平成最後の国会で、そして新しい元号に代わって初めての国政選挙となる第25回参議院選挙で、その議論があくまで相手政党に対する批判や左右のイデオロギー論争に終始することがあれば、日本と、そして世界の将来に対して大きなツケを残すことになってしまいます。
我々国民民主党のような健全な野党が、経済や社会保障の問題に関してしっかりと対案を示しながら、時代に即した社会改革の必要性と改革の先にあるより良い社会の在り方について粘り強く国民に訴えを続け、支持を広げる努力をしなければなりません。問題解決を先送りし続けた結果、日米欧の自由主義諸国で起きている社会の綻びと政治に対する国民の失望。これらを払拭し、国際秩序の維持に再び日米欧各国が取り組める状況を作り、日本と世界の平和と繁栄を維持するためにも、本年はまさに正念場です。平成の31年間の政治の失敗の反省を生かし、問題を解決に向けてしっかりと働く政治の姿を取り戻すため、引き続きご指導ご鞭撻を賜れますと幸いです。